ysheartの長い旅

観戦、観劇、鑑賞をきっかけに感傷に浸る旅の記録です。

#12 星の子、初日

芦田愛菜さんが見たい気持ちで、初日の舞台挨拶を観てきました。仕事が終わって、雨の中、できるだけ雨を避けて、日比谷線六本木駅を下車して向かうルートで、TOHOシネマズ六本木ヒルズへ。(久しぶりの日比谷線に乗って、新駅「虎ノ門ヒルズ」を通過したのも初めてで小さな感動でしたが、それは置いて)

 

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TOHOシネマズ六本木ヒルズ

 

星の子

監督・脚本:大森立嗣

原作:今村夏子

音楽:世武裕子

タイトルアート:清川あさみ

アニメーション演出・作画:香月邦夫

キャスト:

ちひろ芦田愛菜)、南先生(岡田将生)、雄三おじさん(大友康平)、海路さん(高良健吾)、昇子さん(黒木華)、まーちゃん(蒔田彩珠)、なべちゃん(新音)、ちひろの父(永瀬正敏)、ちひろの母(原田知世)、ほか

 

【ストーリー】高校受験を控えた中学3年のちひろは、未熟児として生まれたが、両親は、ちひろの体質が改善したことを機に、ちひろを救った水を販売する新興宗教にのめりこみ、周囲の人は好奇の目で見るようになる。姉は家を出ていき、雄三おじさんは、ちひろを両親から引き離そうとする。ちひろは、エドワード・ファーロングのような新任の南先生にあこがれるが・・・。

 

かつては、芥川賞の発表があるたびに、受賞作を読んだ時期もあった私ですが、最近は全然読んでおらず、今回の原作も知らなかったので、映画をいきなり観ることになりましたが、それでよかったと思います。

これまで、さきに原作の知識を得てから観た作品で、良かったものはほとんどありませんでしたから。純粋な状態で映画に向き合えたと思います。

そして、上映前の舞台挨拶も、登壇者の4人(監督、芦田さん、永瀬さん、清川さん)のうち、今回目当ての愛菜ちゃんの表情はなるべく心にやきつけるようにちゃんと見て、その言葉もしっかり心に残るように耳を傾けるように努める一方で、他の3人については、自然体で聴いておりました(笑)

僕が以前のようにブログで、舞台挨拶を細かくレポートしなくなった理由の一つは、舞台挨拶そのものも、演出がかった内容がほとんどで、新聞記事として映えるけれど登壇者の素顔が見えないということが多くなったためです。なので、再現するよりも、その場で雰囲気にまかせて見ているほうがかえって、心の健康に良くて、また、案外、残るものがあると考え、それでも愛菜ちゃんは少し意識をもって見る/聞くようにしたのです。

愛菜ちゃんは、6年振りの主演の実写映画とのこと。僕が以前観た、愛菜ちゃん出演作品は、阪急線を舞台にしたオムニバス映画でした(以前のブログにレビューを書いたことがあります)が、すっかり成長して、清潔感があって、年月の過ぎる速さに驚かされます。

伊藤さとりさん(司会進行)に、関西弁での挨拶を振られたり、清川さんにタイトルアートの刺繍作品をプレゼントされて感激の意を示されたり、そういうところにも、聡明で人間的に安定した成長を感じさせてくれました。

混乱する令和2年、こういった普通に清らかな水のような人を見て、希望をもって生きていたいものです。

今回の映画も、一般に当然にいだくような、新興宗教への好奇の目と、その当事者としてどうにもならない位置にある女の子の心理への共鳴との間で、なかなか答えをこれ!とはっきり振り切れないで考えさせる作品ですが、そうやって感情移入できるだけの芦田さんの演技が、このようなストーリーを通して、希望の光を感じるのでした。

言い換えると、気持ちとしては、大友さん演じるおじさんを応援するし(笑)、結構、本当のことを正直に話すちひろにも魅かれるし、・・・なんですが、そちらに(つまり僕の望ましいと思う方向に)振り切らないで、この親子をぎりぎりのところまで客観的に見ようとしたまま・・・のところが、こちらに考える隙間をくれていて良かったのです。

 

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六本木駅

 

以上、初日ということで、あまり多く書きませんが(時間も遅くて眠いし)、また追記するかもしれません。

新型コロナウイルス感染拡大にともなう様々な制約の中で、永瀬さんいわく、映画館でお客さんと対面で、というのが、それは観客としても演じた人を間近で見られることが、有難いことで、客席も1席ずつ空けて、入場時も検温のシステムを備えて、いる中ではあるけれど、徐々に、コロナ以前の映画館の良さを感じられるようになってきたこと自体は、嬉しいことだと思っています。

台風が来る前の雨の東京、金曜日の夜でした。

#11 蒲田前奏曲(カマタ・プレリュード)

映画『蒲田前奏曲』(英語タイトルは、Kamata Prelude)の特別先行上映を観てきました。映画館で映画を観るのは、2月以来!コロナ禍ゆえのブランクからようやく離反できたysheartでした。〈ヒューマントラストシネマ渋谷〉は、(かつての映画館の名称は、もう忘れてしまったけど)宮下公園のある交差点の角で以前にも映画を観てきた場所です。

【売れない女優マチ子の眼差しを通して、”女”であること、”女優”であることで、女性が人格をうまく使い分けることが求められる社会への皮肉を、周囲の人々との交わりを介在しながら描いていく。】(フライヤーから)

第1に、4人の監督による《連作長編》すなわち、終始、マチ子が登場したり関連したりしていて、単なるオムニバス作品ではないところが面白いのです。こういうのは、僕が観た映画では、10年前に『海炭市叙景』というのがありましたが、あれは原作の小説があってそちらのほうが映画よりも”連作”らしかった記憶があります。

今回は、もっと自然に一人の女優とつながっています。そのことは、内容の面白さもあるけれど、分かり易い構成という意味で、117分の上映時間もあっという間に過ぎていく原因だと思います。

第2に、このフライヤーの文章から僕は、フェミニズム的、女性運動的(本編にも出てくる”MeToo”のよう)な映画だったら抵抗あるなあと、思って上映に臨みましたが、男性の都合やエゴと激しくせめぎあうというのでなく(確かに戦っているが)、もっと穏やかな日常の時間の流れの中で、女性の考え方に寄り添って、悪とか負の存在ないし空気(男性に原因がある訳ですが)がごちゃごちゃして女性たちが頑張って結果としてかき回してしまう中で自然に淘汰されていくのが、楽しくほっとさせてくれます。

 

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渋谷で先行上映。蒲田前奏曲、9月15日

 

4作とも良いです。通常、得体のしれないのが1.5作ぐらい含まれて、オムニバスないし”連作”というのは(自分が観てきた中では)今一つなのが多いですが、最後の渡辺監督の作品は、僕がここで述べたことにつながることを代弁してくれているし(笑 ああそうか作り手もそう考える人がいるんだと。今回のマチ子の設定にせよ映画の構成にせよ)、マチ子は何処だ、この監督は他の3人と同じ地平線上で平和な人間関係の上でこれ作ったのか、など一抹の不安がよぎったものの、終わってみれば、あれがちゃんと他の3篇と折り合っていると見ることは、僕はできた(笑)

・・・ので、今回は、全体としての感想を言うと、観てよかった、司会の松林うららさん(本編のプロデューサー兼、マチ子役での出演者)も言っていたように、何度か観に来ても、良いだろうな、と思える映画になりました。

 

監督・脚本 ・・・ 中川龍太郎、穐山茉由、安川有果、渡辺紘

企画・プロデューサー・出演 ・・・ 松林うらら

出演

第1番「蒲田哀歌」 松林うらら 古川琴音 須藤蓮

第2番「呑川ラプソディ」 伊藤沙莉 福田麻由子 川添野愛 和田光沙 

第3番「行き止まりの人々」 瀧内公美 吉村界人 大西信満 近藤芳正

第4番「シーカランスどこへ行く」 久次璃子

 

 

なお、今回の映画を観ようと思ったのは、福田麻由子さん目当てでした。福田さんを映画で観たのは、2009年公開の映画『ヘブンズ・ドア』以来です。当時、舞台あいさつで、福田さんは、「お母さんのように演じてほしいと言われた。お母さんのようにというのは難しかった」と話していたのを記憶しています。詳しくは、僕の旧ブログの映画レポートで。

その福田さんは、期待した通りの優しげな存在感で良かったです。対照的な攻めの気性を見せるのが、伊藤沙莉さんで、この女優さんも最近よく話題を見るので、興味がありまして(志村けんさんとの共演作がずっと印象に残っていました)、ここでも、伊藤さん演じる女性が突破口になって、福田さん演じる女性を動かす関係性がテンポがあって良かったです。

今回の舞台挨拶(上映前)での登壇は、福田さんのほか、川添さん、和田さん、瀧内さんの4名でしたが、福田さんは、「(沙莉さんとは)ドラマ『女王の教室』(2005年)で共演してから、3年後には姉妹の役で『霧の火』(2008年)というドラマで共演しました。小学校の同級生に久しぶりに会ったような(感じで)変わらずにいてくれて楽しかったです」。「(第2番「呑川ラプソディ」では、女子会ともう一人?の女性に)それぞれの選択があってフラットな作品になっているところが新しいなと思います」とおっしゃっていました。

登壇の(うららさんを含めて)5人とも色の違う衣装で、それも含めて楽しい時間でした。

25日の公開を待ちます。この映画自体は、穐山監督(上映後、ご登壇)によれば、大阪でのプレミア上映があって、今回は本公開、東京で初日を迎えて嬉しいとのお話でした。

 

また追記したいことがあれば、書くかもしれませんが、いろいろとネタバレの領域に入ってもいけないので、これにて。