ysheartの長い旅

観戦、観劇、鑑賞をきっかけに感傷に浸る旅の記録です。

#104 下北沢シアター711、ハイワイヤ新作公演『トラ』

2023年6月28日、梅雨の晴れ間、仕事帰りに、近場の小劇場で観劇しました。上半期最後の演劇系レポートです。

 

ハイワイヤ

『トラ』

会場:下北沢 シアター711

 

【作・演出】高畑裕太

【キャスト】大河日氣(ヤマダ)、武田紗保(シオリ)、木村望子(ハナエ)、

佛淵和哉(スズキ)、田中廉(柿喰う客)(シンタロウ)、大熊花名実(サクラコ)、

西村由花(青年団)(佐藤先生・他)、村岡哲至(シゲアキ・他)

 

【ストーリー】

ヤマダは中学時代、スズキやシンタロウからイジメの被害に遭った。

自分の本当の名前以外の名前で呼ばれ、やがて「トラ」(動物の虎ではない)として過ごさなければならなくなった。イジメはエスカレートしていき、家族や周囲から自分の状況を理解してもらえなかったヤマダは、ある日から自宅に引きこもり、自分が遭ったイジメについて告白する動画配信を始めた。

(シアター711のサイトの文章をもとに要約)

 

さいわい、雨にならずに、シアター711の夕方。

 

 

開演前の主宰(裕太さん)のあいさつで、これは”喜劇”だ、ということだったけれど、それは、凄惨なイジメを集中してまっすぐ見られるようにするための、魔法の言葉だった気がします。冗談やギャグも、基本的には笑える場面ではないですから。しかし、結末まで観て、これが人生や社会の因果応報のあるべき方向に向かっているところを見れば、”悲劇”ではなく、本作のモチーフになっていた可能性のある高畑さんもこうして元気に芝居を打っているわけです(笑)

 

そして私たちは芝居を見てお金(4000円)を払い、想像力をめぐらす贅沢な時間を過ごせている。

ヤマダ、シオリ、ハナエの家族も、高畑親子も、不穏な時期をくぐりぬけて、今、平和な地平に立つことができている、そういう喜びや幸福を、ラスト近い場面での3人を思い出すにつけても感じることができます。

 

そうだ、笑える場面と言えば、

個人的には、シオリとサクラコが互いによくしゃべっているくだりが笑えましたね(笑

例の女優の不倫で盛り上がっている日本の現状と、いま日本人みんな狂っていること。

ここにあるシオリのセリフにしても、シオリは、本作で、私(たち)を代弁する唯一の人だという気がしたので、この人を軸に観ていました。

 

成人式、私自身は、会場前で群がっていた多くの成人にまぎれたまま気がつくと、会場内ですでに始まっていた式典を垣間見て帰るだけの結果に終わった、不愉快な記憶しかありませんし、スズキのような仮面の優等生みたいなのが、先頭を行く日本の社会の愚かさを、思いながらある種の共感で観ました。

そして、シンタロウのような精神に落ち着きのない、表面的にふざけて承認されたい若者は、いま世間にわりと、下北沢の街中でも、新宿周辺の地下鉄内でも、見かける雰囲気を感じます。世間をあからさまに騒がせる存在で言えば、脱マスク集団、迷惑系YouTuber...なども思い起こせます。

 

実は、スズキもシンタロウも同類かもしれないのです。暗闇を抱えて生きている。

昔、映画で、『リリィシュシュのすべて』というのを観ましたが(2000年公開だったと思う)、あれに出てくるイジメのボスも、そういう存在だったと記憶しています。

 

どうしてああいう理不尽な関係性しか、われわれは、目の当たりにできなくなったんでしょうか。

子どもの遊び仲間に、責任感をもったリーダーが自然に存在して、ほかの連中に仲間がいじめられたら、よし、おれが戦ってきてやる、と言って守ってくれる、兄さん、場合によっては姉さんのような存在の話を聞かなくなって久しいのです。

被害に遭った者の苦しみに寄り添う方向からしか”喜劇”を描けない現実を、本作は暗示している、ともとれました。

 

トラ。ヤマダは最後に、トラの軛(くびき)から解放されますね。

あれは、僕は”トラウマ”だと思いました(観終わって、けさ6月29日、そう思いました。やはり、観劇は、一晩寝かせたほうが断然いいです 笑)。

 

さて、今回、観劇したのは、以前からご縁のある、木村望子さん目当てでした。木村さんの演技は、高畑淳子さんが演じているように見えた(笑)のが不思議で感服しました。今回は、いつも見ている演技よりも、繊細な雰囲気が伝わってきました。

 

開演前の外には、その淳子さんの姿もありました(入場時には裕太さんの姿も)。

これが特撮関連のイベントなら、迷わずマリバロンさんにお声をかけさしていただくところでしたが(笑)、私は”クラゲ型の宇宙生命体”ysheart=一般人に過ぎなく、裕太さんの演劇を観に来たので、そういうことはしませんでした。

距離的には、マリバロンと5メートルくらいあったと思うんですよ(・▽・)(←笑)

 

たしか、7月2日まででしたか、1年の折り返しの日まで、無事に公演が果たされますことをお祈り申し上げます。

 

追記

シアター711は、だいぶ久しぶりです。前回何を観たかは、データ調べないといまは思い出せませんが。キャパは、80人だそうです。どこかの写真で観たよりは収容が多いです。昨日初日で、お客さんの入りは良かったです。